公共交通インフラ(道路、鉄道等)の整備は、地域の産業構造を根本から変え、中長期的な経済成長を促す基盤です。しかし、その投資効果をいかに正確に定量化し、透明性の高い説明責任を果たすかは、政策担当者や投資主体にとって常に大きな課題となっています。
融合研究域融合科学系の寒河江雅彦特任教授、人間社会研究域経済学経営学系原田魁成講師による本論考は、経済波及効果の測定における二大手法「産業連関分析」と「空間的応用一般均衡モデル(SCGE)」を比較し、実務における最適な「使い分け」と「補完関係」を明示しました。
1.2つの分析手法の特性と限界
インフラ投資がもたらす経済的影響を、以下の2つの視点から対照的に論じています。
| 分析手法 | 特性と強み | 実務上の制約・課題 |
| 産業連関分析 | 波及プロセスが直感的で、迅速な波及倍率の算定が可能。実務上のスタンダード。 | 価格変動や代替効果、労働力・資源の制約が考慮されず、過大評価のリスクがある。 |
| 空間的応用一般均衡モデル(CGE/SCGE) | 市場の需給調整や価格メカニズムを内省化。政策シナリオ別の高度な比較が可能。 | モデル構築のコストが高く、設定する仮定によって結果が左右されやすい。 |
2.戦略的な「役割分担」と相補的活用
本論考の核心は、これら2手法を「二者択一」ではなく、「目的別の相補的ツール」として位置づけた点にあります。
・短期・迅速な現状把握(産業連関分析の活用)
建設需要の直接的な波及効果など、短期間での定量的なインパクトを迅速に把握する際に有効です。
・中長期・構造的変化の予測(SCGEモデルの活用)
交通利便性の向上が企業の立地選択や世帯の行動にどう影響し、最終的に地域経済の均衡をど変化させるかという
「質の高い変革」を評価する際に不可欠です。
3.政策評価における信頼性と透明性の向上
インフラ投資に対する社会的な合意形成には、客観的で納得感のあるデータが欠かせません。本論考では、実証事例を通じてモデリング上の留意点を提示してます。分析手法の限界を理解した上で、適切な手法を組み合わせることが、交通政策評価の信頼性を高めることを示唆しています。
本稿は、データに基づいた合理的な投資判断を求める行政機関、および交通インフラビジネスに携わる企業にとって、参考となる重要な指針となります。
掲載紙:公益財団法人高速道路調査会機関紙『高速道路と自動車』25年12月号
高速道路調査会HPのURL:機関誌・刊行物 | 公益財団法人 高速道路調査会
執筆した論説の目次のURL:https://www.express-highway.or.jp/Portals/0/mokuji_2512.pdf



